まだアクチンの熱変性で消耗してるの? – 低温調理による革命的肉食のすすめ – #ヨーグルティア肉

原点は「鶏はむ」だった

独身の頃から作り続けているメニューに「鶏はむ」があります。ざっくり言うと「鶏むね肉に味付けし、密閉して低温で加熱する」料理で、安いがパサつきがちな鶏むね肉をしっとり柔らかに仕上げられるのが特徴です。


なぜパサつかないのか?なんとなく「低温で調理しているから」という理解はあったのですが、キチンとした答えは我らがオライリーの「Cooking for Geeks」という本が教えてくれました。

理屈はこんな感じ。

  • 食肉に含まれるタンパク質のうち大きな割合を占めるのが「ミオシン」と「アクチン」の二種類であり、いずれも熱で変性する
  • ヒトは食べた時「ミオシンは変性しているが、アクチンは変性していない状態」を「おいしい」と感じることが多い
  • ミオシンは50℃、アクチンは65.5℃で変性しはじめる

つまり、50℃以上65℃以下の温度をキープすれば、「おいしい」と感じる状態に仕上げることができるわけです。「Cooking for Geeks」では「58℃ 〜 65.5℃」を「肉の調理に理想的な温度」と紹介しています。

鶏はむの加熱方法は「沸騰した湯に入れたら火を消して保温」というのがスタンダード。高温の状態に鶏肉を入れ、低下した温度が結果的にこの範囲に収まれば「しっとり柔らか」に仕上がる、というわけでした。炊飯器の保温モードで角煮やローストビーフを作る、というレシピがありますが、これも理屈は同じです。


神、あなたの名は「ヨーグルティア」

ところが、炊飯器の保温温度は65℃より高いものが多く、しかも殺菌のため時々90℃までスパイクさせます。そのため、入れっぱなしにしておくといずれアクチンが変性してしまいます。これはよろしくない。しかも調理中はご飯炊けなくなるし。

原理的には「温度を監視するセンサ」「水を加熱するヒーター」「制御するマイコン」があればいいわけで、「Cooking for Geeks」でも自作する例が紹介されていました。いずれ作ってやろうかな…でもヒーター扱うし、うっかりやらかすと家が燃えかねない…と思いつづけて数年。ついに神とめぐり合うことができたのです。

それがこの「ヨーグルティア」。「タニカ」というあまり聞きなれないメーカーの製品だし、ヨーグルトには特に興味がないので、今まで存在には気付かずにいました。

しかしそのスペックは、どう考えても低温調理のために設計されたとしか思えないものです。

  • 温度は25 〜 65℃の範囲を1℃刻みで設定可能
  • タイマーは1 〜 48時間の範囲を1時間刻みで設定可能

どうですか?前提知識があると、「神スペック」というほかない気持ちがお分かりいただけるでしょうか。

出会ったきっかけは「ヨーグルトメーカーで肉を煮る – デイリーポータルZ:@nifty」という記事。この方からは同類の親近感を勝手に感じてしまいます。紹介してくれてありがとう!!!

安全上の注意

肉の生食はリスクを伴う行為です。安全には十分注意した作例を紹介していますが、試す際はあくまでもAt your own riskでお願いします。

Cooking for Geeks」を参考にした上での個人的な基準として、以下の基準を守って調理しています。

  • 中心が60℃以上の状態を最低30分キープする
    • 63℃4時間なら十分クリアしていると考えています
  • 調理終了後は60℃以上もしくは5℃以下で保存する
  • 乳幼児・老人・体調の悪い人には食べさせない

つくりかた

モノによって多少変わりますが、基本は…

  • 塊の肉に下味をつける
  • ジップロックに入れ、できるだけ空気を抜いて密閉する
  • ヨーグルティアの加熱容器にぬるま湯と一緒に入れる
    • 湯沸かし器の湯(40 〜 45℃を使っています)
  • お好みの温度・時間で加熱する

…という流れ。熱の伝わり方に差が出るので、「空気を抜く」作業は丁寧かつ執念深く行ってください。

以下作例

はーい、それではここからは肉の写真を並べます。iPhoneで撮影したし腕もないしでたいした写真ではないですが、 「ヨーグルティア肉」の魅力を少しでも感じていただければ幸いです。

鶏むね肉 64℃4時間

味付け : クレイジーソルト・バジル

ヨーグルティア肉のデビュー作。しっかり火は通っているがパサついた感じはなく、初回から大成功。

鶏むね肉・ささみ 63℃4時間

味付け : クレイジーソルト

少し低めを攻めて63℃。加熱に大成功したときの鶏はむはちょうどこんな感じの食感になります。漬け込み2日加熱一晩かかっていた味を4時間放置で再現できるとはライフチェンジング。

クレイジーソルトは魔法の粉末で、困ったときはこれを振っておくとそれなりの味に決まってくれます。ヨーグルティア肉の強い味方。

牛もも肉 62℃4時間

味付け : 塩・胡椒・ガーリックパウダー

外側を焼くこともせずそのままどぼん。100g200円ちょっとの安い肉だけど、低温調理にはかえってこのぐらいの赤身肉の方が向いているようです。

豚肩ロース肉 63℃4時間

味付け : おろしにんにく・おろししょうが・醤油・味醂

煮豚を超弱火で加熱する、という作例を持っていたのだけれど、それが放置プレイで再現できるとは…という感慨があります。耐えきれずにラーメン作って載せました。

豚もも肉・鶏むね肉・卵 63℃4時間

味付け : クレイジーソルト

肉はそれぞれ250gぐらいの塊に卵を1個。これでだいたい容器いっぱいいっぱい(というかちょっと詰めすぎ)。

卵は白身が58℃から、黄身が65℃から凝固し始めるとのことなので、この仕上がりは理屈どおりです。白身を完全に凝固させるには80℃ぐらいまで上げる必要があるそうなので、ヨーグルティアは温泉卵(白身がゲル状、黄身がある程度凝固)にも半熟卵(白身が凝固、黄身は凝固しきらない)にも不向き、ということがわかりました。

クミンヨーグルト

このヨーグルティア、低温調理だけではなく、なんとヨーグルトを作ることもできるのです!!!(ここ笑うとこな)

ヨーグルトには特に興味なかったんだけど、ヨメさんが大盛り上がりして作っております。そんな時出会ったのが「毎日の小さじ1杯のクミンで体重や体脂肪が劇的に減ることが明らかに:調査結果 – IRORIO(イロリオ)」という記事。なんだーやせちゃうのかーじゃあしょうがないかー、というわけで、毎朝の習慣に取り入れています。残念ながら成果はまだない。

Tips

ヨーグルティア肉生活をしていて学んだことをいくつかご紹介します。

ジップロックはケチらない

水中で放置するため、ジッパーの信頼性が重要です。いい加減な袋を使って浸水したら台無しですから、信頼と実績のジップロックを指名買いしたいところです。

ダブルロックのフリーザーバッグを大・中・小と揃え、肉の大きさによって最適なものを選ぶことで、調味料と加熱容器の体積が効率よく使えます。


空気抜きはしっかりと

ジップロック内に空気が残っていると熱の伝わりが悪くなり、加熱が不足する危険性があります。空気抜きはしっかり行いましょう。

空気を抜く2つの方法を紹介しますので、お好みの方を。

  • 容器内水没作戦

ヨーグルティアの容器に水を張り、ジッパーを少し開けたジップロックを慎重に沈めます。水圧で空気が抜けるので、十分なところで密閉します。

  • 人間真空ポンプ作戦

ストローを差し込んだ状態でジッパーを閉め、口で空気を吸いだします。十分抜けたところでストローを引き抜きつつ密閉します。

味付けのバリエーションをもとう

クレイジーソルトは魔法の粉なので、困ったときはこいつに頼ればだいたいOKです。でもさすがに毎回だと芸がないので、味付けのバリエーションを持っておくと飽きずに楽しめるでしょう。

味付けの実例

  • 塩・胡椒・ガーリックパウダー

牛肉・豚肉にはガーリックを効かせるとガッツリ感が出ます。鶏むね肉にはいまいち合わないのが残念。

  • 醤油・味醂

日本人には安定の組み合わせ。酒を入れたくなるが、煮立たせないし密封してるのでアルコールが飛ばないことに注意。

  • オイル併用

クレイジーソルトにはオリーブオイル、醤油にはごま油を使ってコンフィ風にしても味に変化がつきます。

あると便利な調味料

  • クレイジーソルト

なんだかんだいって頼れる、魔法の粉。ドライバジルを混ぜると少し雰囲気が変わります。


  • おろしにんにく・しょうが

チューブのものでもいいんだけど、もう少しちゃんとしたものを…と思っていたら、ヨメさんが見つけてくれました。にんにくは6本入りのしか見つからないな…。


  • 岩塩

ミルつきの岩塩は使いやすく味に変化がつくのであると便利です。


食肉調理に革命を

ということで長々と低温調理について書いてきたわけですが、「ヨーグルティア」の魅力が少しでも伝わったでしょうか。ぜひみなさんも食肉調理の革命を体験し、作例を「 #ヨーグルティア肉」タグで公開してください。ネタとして参考にします!

2016-08-19 追記 : 先日ヨーグルティアSという新機種が出たのでリンクを追加してあります。お値段据え置きで性能・使い勝手が向上しているので、今から購入するならこちらがよいでしょう。